初生


CDが気に入れば生でも聴いてみたいと考えるのは自然である。
2003年1月、たまたま近くの店でカルテットのライブが行なわれるとの情報を仕入れた私は、早速確認をする。考えてみれば、この時に初めて藤井郷子&田村夏樹のウェブサイトを見たのだ。

その日はまた特に寒かった。雪が降らなかっただけマシだったかもしれない。
小さな店ではあったが張り切って最前列に座ると、そこがまた入り口に近い。店の作りとステージの位置関係がちょっと特殊である。ドアの隙間からは良く冷えた隙間風が私の体を冷やしてくれたので、演奏の始まるのが後1時間も遅かったら凍え死んでいたかもしれない。

この時、店の入口付近に並んでいるCDの中には発売直後の「藤吉」も並んでおり、某○マゾンにて発売前に予約を入れたにも関わらず、まだ入手出来ていなかった私は非常に悔しく思ったことを覚えている。
演奏は既に発売されていた「ヴァルカン」からがほとんどで、そこに発売されたばかりの「ミネルヴァ」からと、昨日初演だったと言う新曲(ゼフィロスに収録されている)も入って快調であった。
CDだけ聴いていた時にはそれほどでは無かったが、生で聴いているとドラムとベースの印象が強烈で、このバンドの認識を新たにせざるを得なかった。普通はドラムとベースでリズムをしっかり維持し、その上にピアノやホーン類が暴れるというパターンが多いのに、ここではドラムとベースが好きに暴れていて、トランペットは坦々と、ピアノが皆をつないでまとめているような、そんな感じに聞こえてしまった。
もちろん、4人ともプロだし好き勝手に音を出しているわけは無いのだが、聴いていて「ヴァルカン」や「ミネルヴァ」で、今まで聴いて来た藤井郷子の音楽とは違うと感じた理由や、このカルテットの存在理由までがわかったような気持ちになったのである。

演奏を満喫した私は良い気分で余韻に浸っていた。自宅までは車で1時間くらいなので終わったらさっさと帰るつもりだったが、寒くて外に出たくなかったこともあり、しばらくそのまま座っていたというのが正解かもしれない。
で、その日の客の入りといったら7人程で、演奏する方はどうだったか知らないが聴く方としては演奏中からのびのびしており、演奏終了後にメンバーが店内に戻って来て空いたテーブルに座ったりすると自然と一緒に会話してたのである。それまでライブを観に行った経験も少なかったし、ライブ終了後は直ぐ帰っていたので、このような様子を見たことは無かったから凄く新鮮だった。
こんな時に話し掛けない者が居るだろうか?ドキドキしながら何と話し掛けたのか忘れてしまったけど、気持ち良く相手をしてくれたのが嬉しくて、益々気に入ってしまったのは言うまでもない。

その後、すっかり癖になったのか何度かライブに足を運び、カルテット、オーケストラと、その度に堪能したが「東京に住んでたらもっと観られるのに」という無念さも無いとは言えない。
(2004/04/28)


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