不自由な猫
2005年8月28日(日)、岐阜県高山市におけるデュオライブ。
今回は、リハーサルからの公開。藤井、田村両氏によるソロ演奏も入れるという、なかなか無茶な企画であったが、お二人には無理矢理気持ち良く承知して戴いた。
2人のデュオでは念入りなリハをしたことなかったらしいが、今回はリハも公開しなければならない事から「デュオでやったことの無い曲を試す」というコンセプトでもって、折しも1stアルバムが発売されたばかりの、藤井郷子がアコーディオンに挑戦した「ガトー・リブレ」の曲を持ち込んできた。
とは言っても私は前日までガトー・リブレの曲は耳にしたことが無かったし、当日のリハが始まるまでそこから演奏曲を持って来るとは知らなかったので、ちと驚いた訳だったが。
ガトー・リブレは田村のユニットで、「せつないかもしれないメロディー」が歌い文句であり、トランペット、ギター、ベース、アコーディオンという構成でアコースティックなことも売り文句の一つ。
田村のふくよかなトランペットに比べ、藤井のアコーディオンの響きはほとんどピアニカと区別つかないが、あのサウンドはこの響きでないと崩れてしまう可能性があり、狙ったとすれば田村の非凡さに脱帽するしかない。しかし、そんなユニットの曲をピアノとトランペットのデュオでやろうと言うのである。
2人がウォーミングアップを始める。勿論公開リハだからしてここから客入れを始めてるわけだがすぐには入って来ない。しばらくは片手づつ鍵盤を順にころがしていく藤井のピアノが響き、しかし、一人の客が入ってきたのに気付くと慌てて弾くのをやめ、リハーサルと言う名のライブが始まった。
「あのバンドはサウンドを厚くしたくない」とは田村の弁だが、楽器の数は4から2へと減っているのにも係わらず、やはりピアノが入ると厚みが増す。
田村の作る曲は、わりと単純なメロディーであるし、元々坦々と演奏されているためか、ただそれをなぞるような演奏ではピアノ弾きであるところの藤井には面白くなかったようで、リハの最中、幾度も「面白くない」「つまらない」を連発し、演奏を途中でストップしては方針変更がされていた。
はては「ナインピンやろう」とまで言いだし、「楽譜持ってきてない」と返す田村に「覚えてない?」とピアノを弾きだす。田村も応えて吹き出したので思いがけずデュオのナインピンが聴けて私は嬉しかったが、あまりにもそれまでの曲とは事なる雰囲気のせいか、演奏はそこだけで終わってしまった。うーん、こっちの路線も聴きたかったなぁ。
そんなわけで、段々とドラマチックになっていく‘自由な猫’。しかしながらその様は、逆に藤井が自由ではなくなってしまった猫を表わしているように感じてしまったのである。
だからといって、また演奏の面白さとは関係無いところが面白かったわけでもあるが。
さて、16時からの公開リハーサルに居合わせた客は5人。
休み無く1時間半程続き、終了となったが、やはり5人とは言え客を意識してか、リハなのにしっかりとソロもとったりと、サービスも完璧。
曲の構成を見直したりして中断するのを覗けば本番と変わらないであろうし、逆に出来上がって行く過程も観ることができたわけで、私に言わせれば「いやぁ貴方達、幸運でしたねぇ」と言うことだが、本番には一人来なかったのが気になる。土産物の袋を下げてたから時間がなかったのだろうか。
休憩を挟み、本番は19時から。
これまた希望により、最初は各々のソロが入る。俗に言う「生コココケ」と「生スケッチ」である。
「怒って玉子投げないでくださいね」という決まり文句(らしい)で始まり、途中「笑う曲じゃないんだけどなぁ」との田村のつぶやきとは裏腹に笑いが止まらない客まで出てしまい、演ってる田村まで途中で客につられて吹き出す始末。
続いて、藤井のピアノソロ。
何度か書いててくどいのは承知だが、やはり美しい。ノンストップで30分位弾き続けたが、終わってみればあまりにもあっという間であった。私としては、もっとあの幸せに浸っていたかったが、もしかすると、それが1時間でも2時間でも同じようにあっという間に感じたかもしれない。
そしていよいよ公開リハの成果を示す時間となった。
成る程、さっきの小間切れはこう繋がるのか。とか、リハでの打ち合わせは何だったのか。などと勝手に思いつつ微妙な演奏を楽しんだのだが、何が微妙なのかって、藤井郷子が自分の曲ではなく、かと言ってゲスト的な参加でもなく、2人でアレンジをしたけれども主導は田村に譲っていて、2枚のデュオCDにあるような対等路線からも外れている。という、今まで聴いたことの無い位置関係で演奏を繰り広げているのだ。微妙としか言いようが無いではないか。
ま、場合によっては「外では従順な妻を演じてるけど、夫の手綱はしっかり握ってるわよ」的な演奏と表現しても良いかもしれない。
この状態がざっと一時間。アンコールに応えて田村が「そう言えばさっき、やると言ってやってませんでした」とコココケから‘口ドラム’を披露。
まだ続く拍手に藤井は何と同じくコココケから‘PENG’を披露してくれた(もちろん声のとこだけである。曲名も勝手に‘ベシ’にしてたし)。
(2006/1/4)
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